KAMUROのMODELたち~orbis 後編~

つづき。

“大きな問題”っていうのは、“どこにもない”ことだったんだ。
つまり、“やったことがない仕事”ってこと。

改めて見てもらいましょう・・・

KAMUROのMODELたち~orbis 後編~_b0170134_2139464.jpg


このようにテンプルの色を付けて欲しい部分を凹ませてそこに色を塗ってもらいます。

職人さん曰く、

「こんなにたくさんの色は塗った事がないよ。」

と、いう顔は半分「お前わかってるのか?」って感じだった。

色を調色して注射器をつかって手作業で塗るってことは知っていた。
塗った後で焼き付けるということも。 作業を見たことはなかったですが説明で。

シゴトを発注するのはメーカーさんで、メーカーさんは工程ごとに下請けの職人さんに
振り分けて行くっていうのが、日本のメガネ作りの通常なんだ。
クライアントのボクとのやり取りはメーカーの担当者さん。

ここが問題だったんだ。

ボクの思ってた作業工程は・・・

色を作る→順番を間違わないように塗る→焼き付ける・・・

確かに作らなければならない色数は今までよりも多いんだろうけど・・・

それが浅はかだったんです。

“順番に間違わないように塗る→焼き付ける”という作業を色数分だけしなきゃいけないって
ことだったんだ。

もう一度上の画像を見て下さい。

一番最初の色(フロントに近い順)はオレンジですね。

まずはそのオレンジを生産数分全部塗ります。
次にそれを“仮焼き”と呼ぶんですが、軽く乾燥させるんですね。
で、チェック。 ここで“ブツ”と呼ばれるんですが気泡が残ってる場合があります。
これでは不良ですからやり直し。
全部上手くできた・・・とすると“本焼き”。 1昼夜ほどかかるそうです。
で、同じようにブツがないかどうかをチェック。 

上手くいったとしたら次の色。この画像でいうグリーン。
で、上の同じ工程をするんです。

7色あったら焼き付け回数は“仮”が7回、“本”が7回で14回。

日数は7昼夜。 

もし、最後の色で“ブツ”が入ったら・・・全部やり直し。

モチロン、調色の際に“脱泡”って言って塗る材料を遠心分離器で真空にするんですよ。
でも、塗った後で気泡やホコリが入ってしまうことはあるんだそうです。

回数を重ねるほど、そのリスクは高くなるんです。
それから14回の焼き付けは最初のベースの塗装にダメージが出るかもしれない。
ベースがダメになったら・・・もう終わり・・・

そんなのやらないだろうし、知ってるヒトなら最初からお願いしないよね。
不良率が高くなるわけだから。 納期だって読めない。

ボクは“中途半端な知識だった”から言っちゃった。
ここで初めて自分のアイデアがとてつもなく大変なことなんだって気づいた。

「やれないな・・・」

って言われました。

あきらめるのはイヤだった。

何とかお願いしました。

「自分でやってみろ!」

って言われたこともありました。

不良になることがわかっててシゴトするヒトはいないよね。
返品になったらやったヒトが被らないといけないんだもん。

そうなると、自分の“やりたいコト”に賛同してもらうしかなかった。
“自分を知ってもらう”っていうんですかね。

「やってみるか・・・」

と言ってもらい、そのような事態にならないようにテストを重ねてどうにか
製品化してもらいました。

コレを完成させる為に学んだことは、出来る限り生産に関わる方々と
コミュニケーションを取ってお互いを理解し合うことだったと思う。

いつも言うところの“チームワーク”。 

工程ごとに違う方々を一つにまとめること。

以降、ボクはこのほぼ8年間、毎月生産地である鯖江に行くことを休んだことはないです。
直接会ってお互いの状況を話すんだ。

何気ない話であっても、お互いの考え方は見えるモノ。
電話やメールじゃわからないんだ。 表情が見えないから。
単なる連絡事項ならいいかもしれない。
でもそれでお互いの思ってることは伝わらないとボクは思ってる。

コストがどうとか、お客さま(この場合ボクらがお客さまになる)だからとか、
どっちが上でどっちが下とか、そうゆうことじゃなくて、

「ちょっと面倒だけど、できたらオモシロくない!?」

「大変だけどKAMUROのシゴトはオモシロいな。じゃチャレンジしてみっか!?」

お互いが対等な立場でプロダクトしていくこと。
買うヒトだけじゃない。 作るヒトだって楽しんでもらう。
“楽しい”っていうのはワイワイ笑いながらするんじゃないんだよね。

本当にお互いが1つのプロダクトの事を真剣に考えて時にぶつかり合う事。
お互いの立場をよく理解し合って作り上げて行くこと。
結果、満足のいくモノが出来上がる。 
“やり遂げた感”、コレがボクの“楽しい論”。

このモデルでそれを知った。
コレクションを重ねて行く上で大切なコトを学んだモデルだった。


結果、このモデルは人気のモデルになり、長寿モデルとなってくれた。
リピートしてもいつの間にかストックが無くなってます。

「次はいつ?」

とコレが好きでリクエスト・予約して下さるお取扱い店サマもいらっしゃいます。


いつもの工程、いや去年からはさらに工程が増えて・・・
(柄を立体的にするようにしてもらった)
orbisはもうすぐ生産がアップされる。

新色とともにね。
by kamurocorp | 2012-03-25 00:42 | プロダクト